山田は,五十一歳になったところだった。
高校を卒業して,すぐ国鉄に入った。以来三十三年になる。
国鉄一筋の生活だった。
車掌見習だった頃のことや,初めて専務車掌として,長距離列車に乘りこんだときのことなどを,時々,思い出すことがある。
今,車掌として,最高の地位といわれる車掌長になった。
ウイ―クデイだし,今日から学校が始まったということもあって,乗客の数は少ない。
「日本海2号」は十二両編成で,最前のカニ車(荷物室付電源車)を除いて,すべて二段式のB寢台である。
青森からの乗客は,今日は一両平均十二名しかない。十一両で,百二十九名余。観光シ―ズンで,満席のときに比べると,楽な乗務といえるだろう。
山田たち四人の車掌は,昨日,下りの「日本海1号」で青森へ来た。
昨夜,青森で泊まって,今日,上りの「日本海2号」に乗る。
かなりの激務なので,青森の市内見物もする気にならず,昨夜は晩酌に,ビ―ルを一本飲んだだけで,眠ってしまった。他の三人も,同様だったらしい。
「うちの末娘が,今日,入学式なんですよ」
と専務車掌の矢野が,山田にいった。